寝苦しい真夏の夜の物語

投稿者:User icon mini swase 投稿日:2016/08/23 17:16

「夏」の風物詩となるものを挙げれば、西瓜、涼み台、金魚、
団扇(うちわ)、蚊、行水(ぎょうずい)、寝苦しい夜、昼寝など、数々ある。
こういったものは「夏」そのものを実感させるものだったが、
今は、その「面影」ばかりが残っているだけのように思える。
電気のなかった時代、夏に涼をとるには、
団扇ほど重宝なものはなかったことだろう。
ただ、重宝であるが人の手で扇(あお)がなければ用を成さない。

そんな、団扇や蚊、寝苦しい夜、という言葉を用いた、
落語の演目に『廿四(にじゅうし)孝』というのがある。
これを簡単に紹介すると、
「酒吞みの八五郎は、親を蹴飛ばしたり、文句を言ったりと、どうしようもない男。
そんな、親を粗末にする様子を見て、大家が意見をする。
唐土(もろこし)には『廿四孝』という書物がある。
これは、孝行息子について書かれたもの。
その話の一つに、呉猛(ごもう)という人物について書かれた話が出てくる。
蚊というものは酒の匂いが好きで、母親を蚊から守り、ぐっすり寝かせるために、
蚊をおびき寄せるために、自分は裸になって身体に酒を吹き付けて寝たという話がある。
これを見習って、ちょっとは、孝行すべきだ。
それに、良い行ないをした孝行息子を奉行所が表彰するそうだ。
それを聞いて八五郎は、「そうか、ちょっとは親孝行もすべきだろう」と思い、
体中に酒を塗ろうと思ったが、そんな、もったいないことをしてはいけない。
身体に塗るも、身体に入れるも同じとして、つぎつぎと酒を呑んでしまう。
やがて、酔いつぶれて寝てしまう。
ふと目を覚ますと、「おっ、オレは蚊に刺されていない!親孝行したんだな〜」と言うと、
そばで、母親が「何言ってんだよ。お前が蚊に刺されないように、
一晩中、団扇で扇(あお)いで蚊に刺されないようにしてたんだよ!」というオチ。
蚊が刺さないように団扇で扇ぐという習慣は、今はない。
こんな落語も、前もって、ある程度の説明しておかなければ、スコ〜ンとオチにはならない。

また、艶っぽい江戸川柳に
「忍ぶ夜の 蚊は叩(たた)かれて そっと死に」というのがある。
この笑いも、ある程度の説明がなければ笑えない。
これを解説すると、「ある女(ひと)のもとに気づかれず忍んで行く夜。
もちろん、声もたてることもできないばかりか、蚊も思い切ってパチンと叩けない。
そっと手を伸ばして静かに叩く。
うまく仕留めて、蚊は誰にも気づかれず、ひそやかに死んでいく」という話。

こんな話。昔は、実感がこもった話だったろうが、
現代人には、こんな夏の風物詩も、
「面影」だけの遠い物語になってしまったようだ...

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